山田美妙集 全12巻 ≪2012年4月刊行開始≫ 【各巻収録内容】 (予定) *は既刊 ( )は校訂解題担当者 《本著作集の特色》 |
●●● 「山田美妙集」を推薦する ●●●
書斎は戦場なり ・・・・・・・・・・・・・・ 嵐山 光三郎 山田美妙は二十歳(明治二十年)のときに小説『武蔵野』を「読売新聞」に発表し、言文一致の小説家としてデビューした。二十一歳のときに『夏木立』(短編集・金港堂)、二十二歳で『蝴蝶』(国民之友)、とつぎつぎに問題作を発表した小説家である。近代小説の文体は美妙によって始まったといってよい。 |
泉下の美妙にも届けたい朗報 ・・・・・・ 木村 義之 若くして流行作家の地位を獲得し、言文一致運動史に逍遙・四迷・紅葉らと並んで今なお燦然と名を連ねる山田美妙には、その仕事量に見合う規模の著作集が刊行されておらず、本文の分散には不便を感じていた。立命館出版部の『美妙選集』は種々の事情から選に漏れた作品も少なくない。また、山本正秀編『近代文体形成資料集成』にも美妙の重要な評論は収められているが、すでに絶版となって久しい。こうした美妙の扱いをかねて残念に思っていたところ、このたび大規模な『山田美妙集』が刊行されるとの朗報が届いた。 |
もたらされる恩恵 ・・・・・・・・・・・・・・ 境田 稔信 山田美妙は文学者として有名であるが、国語学者でもあった。言文一致や句読点類の使用といった日本語表現の変革期に直面し、数々の持論を発表・実践している。また、辞典の編纂も手がけ、『日本大辞書』『日本地名全辞書』『万国人名辞書』『帝国以呂波節用大全』『漢語古諺熟語大辞林』『新編漢語辞林』『大辞典』などを出版した。たとえば『日本大辞書』を見ると、句点と読点の中間的な「白ゴマ点」を使っていたり、疑問符・感嘆符を古典の引用文にまで加えることをしている。日本で初めてアクセントを表示した辞典であり、口述速記によって原稿が作られ、口語体の語釈も初めてだったから、かなり革新的である。しかし、文学以外の活躍について詳しく書かれたものは珍しく、一般にはあまり知られていない現状にある。美妙の全容を知るためには原資料を一つ一つ探し出す必要があり、一部の専門家を除いて縁遠いものになっている。それがこの『山田美妙集』において、小説類のみならず、評論・随筆・書簡・日記等にいたるまで、まとまった形で収録されるという。刊行された暁には、おおいに美妙への理解が深まることだろう。どんな研究においても原典を確認することは欠かせないものだが、まずは『山田美妙集』があれば、容易に全体像を把握することができるのである。研究者にはもちろんのこと、近代文学に興味をいだく一般読者にも、基本的な文献として多大な恩恵をもたらすのは間違いない。 (日本エディタースクール講師) |
真の美妙復権に向けての果敢な試み ・・・ 中島 国彦 山田美妙は「です」、二葉亭四迷は「だ」、尾崎紅葉は「である」――このようなことを、高校三年の時、耳にした。言文一致文体の創出に関係する知識だが、それが美妙の名を知った最初である。戦前初刊の岩波文庫は絶版、昔出ていた『美妙選集』二冊は古書価が高く、図書館で見るしかない。その後、講談社版『日本現代文学全集』、筑摩書房版『明治文学全集』などの「山田美妙集」で、主要作品を読むことが出来た。『武蔵野』『蝴蝶』などの有名な初期作品は比較的読みやすかったが、文学史的に重要な文学者であることはわかっていても、その他の作品を眼にする機会が少ないため、位置取りがなかなか定まらなかった。文才は理解出来ても、文末の「です」には、ゆるみがあり、句点の後の一字開けも、どうしても親しめない。美妙にとっても、そうした外面は損ではないか、と思った。 |
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